京都の住所と通り名

ジャパンホテルズ五条室町 室町通 五条通 万寿寺通 烏丸通 豆知識

1.京都市内の道案内の方法

私たちが運営する宿泊施設の一つである「ジャパンホテルズ五条室町IN京都」の住所は以下のようになります。

京都市下京区坂東屋町262-1

仕事中、タクシーの運転手や取引先から電話がかかってきて、宿泊施設の所在地を聞かれることがよくあります。

おたくの場所、教えてもらえませんやろか?

京都市下京区坂東屋町262-1です。

どこの通りにあるんですか?

京都市内で住んだり働いたりしている人であっても、「坂東屋町」が市内のどこにあるのかがわかる人はほぼいません。
道案内の方法は、土地柄によって様々あるかと思いますが、京都では十中八九、通りの名前で説明します。

京都市下京区室町通五条上る坂東屋町262-1

住所が長くなるにもかかわらず、わざわざ通りの名前を書くのは、京都市内に住んでいる人・働いている人であれば、通り名を見ただけでどの辺りにあるのかがわかるからです。

「室町通五条上る」を書き加えることで、室町通と五条通の交差点の近くにある、ということがわかります。

2. 条坊制と交差点

(1) 条坊制って何だろう

京都市内は、よく「碁盤の目」と表現されるように、東西の通りと南北の通りが直角に交わっています。これは、桓武天皇が京都に遷都する際に、唐の都「長安城」(現:西安)を参考にして作られたためです(長安城の大きさは京都の約3倍です。でかい…)。

東西の大路()と南北の大路()を碁盤の目状に組み合わせることで、左右対称で方形の都市を形作っていることから、このような都市計画を「条坊制」といいます。

※ 条坊区域の北端中央に宮城きゅうじょう(京都では大内裏だいだいり)を配置した都市を、北闕ほっけつ型都市といいます。京都も長安も、条坊制を採用する北闕型都市です。

(2) 交差点の名前の不思議

(ア) 四条烏丸からすまと烏丸五条

京都市内の交差点は、交わる通り名をくっつけた名前がつけられます。

例えば、

  • 四条通と烏丸通の交差点 → 「四条烏丸」
  • 五条通と烏丸通の交差点 → 「烏丸五条」
「四条烏丸」では、東西の通りである四条通が先にきているのに、「烏丸五条」では、南北の通りの烏丸通が先にきている。なぜ?

四条堀川や五条大宮に至っては、「四条堀川」「堀川四条」・「五条大宮」「大宮五条」のどちらのパターンも存在しています。

(イ) 元々は

さきほど「東西の大路(条)と南北の大路(坊)」と書いたように、元々は東西の通り名が先にくるのがルールでした。

しかし、時代が進むにつれて、各区域で経済力に差が出始め、南北の通りが繁盛している交差点では、南北の通りが先にくるようになりました(室町時代後期頃から)。そのため、東西の通り名が先の交差点と南北の通り名が先の交差点が混在することになりました。

結局のところ、交差点の名前は「周辺の人々が呼び慣れた順番」で付けられています。

(ウ) 五条通って烏丸通より大きくない?

京都で最も繁盛している場所は?と聞かれたら、多くの人は「四条河原町」と答えます。烏丸通もビジネス街のある主要な道路の一つではありますが、今も昔も四条通には敵いません。

四条通の神通力も河原町周辺から離れれば離れるほど弱くなっていくので、西大路との交差点では「西大路四条」と四条通が後になってしまいます。
人間の四条通に対して、自動車の五条通
国道1号・8号・9号という3つの一桁国道が通る五条通は、市内で最も交通量が多い主要幹線道路です。烏丸通にだって負けてはいません。
元々、東西の通り名が先というルールがあったし、道路としての機能も負けていないのに、なぜ烏丸通が先にきているのでしょうか?

通り名の逆転現象が起こり始めた頃、当時の五条通(現:松原通。松原通は五条通より北にあります)以南に街といえるものはなく、田畑や荒地が広がっていました。それは、応仁の乱から100年以上続いた戦乱の時代の影響によるものでした。

また、自動車が交通の主役になる前の時代における京都の交通の要衝は、東海道五十三次の終点である三条大橋を有する三条通でした(五条通の幅員が50mに拡幅されたのは戦後)。

このように、長い間、烏丸通>五条通だったことから、人々が「烏丸五条」と呼び慣れてしまった結果、五条通が烏丸通に勝るとも劣らない主要道路になった現在でも、「烏丸五条」と呼ばれ続けています。

(3) 上る・下る・東入る・西入る

建物は何も交差点だけに建っているわけではありません。最寄りの交差点がわかったとしても、その交差点からは4方向に道路が出ているわけで、そこからどの道を行けばいいのかがわからないと目的地にたどり着けません。

そこで、どの道に行けばいいかを「上る・下る・東入る・西入る」で表しています(「上ル」のようにカタカナ表記もよく見かけますが、公的機関では平仮名が使われます。カタカナのほうがわかりやすい気もしますが…)。

  • 上る(あがる):北へ行く
  • 下る(さがる):南へ行く
  • 東入る(ひがしいる):東へ行く
  • 西入る(にしいる):西へ行く

上る 下る 東入る 西入る 上ル 下ル 東入ル 西入ル

3. 交差点名と住所の表記方法

ここまで、京都市内の道案内の方法や交差点の名前の付け方などを書いてきましたが、次の3つを見比べてみてください。

  • 交差点名:五条室町
  • 施設名:ジャパンホテルズ五条室町IN京都
  • 住所:京都市所下京区室町通五条上る坂東屋町262番地

交差点名と施設名は「五条室町」ですが、住所は「室町通五条上る」となっています。上で書いたルールに従えば、「五条室町」が正しいです。では、住所の「室町通五条上る」は書く順番を間違えたのでしょうか?

いえいえ、そんなことはありません。住所の表記としては、「室町通五条上る」が正しいのです。
というのも、住所の表記には、もう一つ別のルールがあるためです。それは、「土地や建物が面している通りを先に書く」というルールです。

ジャパンホテルズ五条室町IN京都の出入口が面しているのは室町通であって、五条通ではありません。そのため、室町通が先・五条通が後になります。

下の図の赤色の部分が「室町通五条上る」で示される場所の範囲です。「室町通万寿寺下る」も同じ範囲を意味しますが、五条通のような主要道路を使った方がわかりやすいです。

ジャパンホテルズ五条室町 室町通 五条通 万寿寺通 烏丸通

4. 京都は異端?それとも世界標準?

京都の地名の表し方は、公的なものと慣習的なものが入り混じっていて(細かいルールは他にもありますが、ここでは割愛します)、他の地域出身の方からするとわかりにくいと感じることもあるかと思います。

ただ、メジャーな通り名の位置関係を覚えてしまえば、通り名だけで目的地をかなり狭い範囲まで特定できます。今は、GPSを利用したナビを使って目的地に行くことが一般的になりつつありますが、それがなかった時代には非常に便利だったことは間違いないと思います。

皆さんご存知の通り、日本では、「区画名+番地」で住所を表記します。その表記に慣れ親しんだ人からすれば、京都の「通り名+方向」で表された住所は不自然に感じるかもしれません。

ただ、欧米などでは、「道路名+建物番号」で住所を表すのが一般的です。海外旅行に行って住所を尋ねるときに、区画名(ブロック名)を聞いても誰も教えてくれません。必ずストリートの名前で答えられます。

いずれ海外旅行に行ってみたいと思う方は、道路名を使って所在地を表す文化を体験できる練習場として京都に観光に来られてみてはいかがでしょうか?
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